にょぐただでてけー!

body

1.はじめに
このシナリオは少人数向けに作られているつもりである。
明確にPC1が主人公を張っているので、きちんと相談してPC1を決めておく必要がある。
舞台が幼稚園に隣接する教会であるため、探索者の中には幼稚園関係者(園長以外)がいると導入がしやすいため好ましい。
その他には私立探偵など、ある程度幼稚園に出入りする理由を作ることのできる職業が望ましい。
警察官は導入が難しいかもしれないが、オカルト捜査官などイレギュラーなPCなら可能ではある。
もしくは、幼稚園関係者(園長以外)の知人にする、など。

2.シナリオの概要
月絵(かつえ)町にあるカトリック系の幼稚園・ねこま幼稚園の園長から、園に隣接する月絵町教会の地下礼拝堂で何やら怪しげな事が行われているとの相談を持ちかけられる。
園長は、アメリカから新しくやってきた神父が、その行為の指導者ではないかと目星を付ける。探索者たちは二人と共に地下礼拝堂を調査することに。
不穏な行動が目立つ(ように見せかけられている)神父。しかし、真に礼拝堂で儀式を行っていたのは、他でもない園長であった。
園長自身が何故わざわざ探索者たちに相談を持ちかけたのか。
それは探索者たちに神父を怪しませようとミスリードし、何の疑いもなく生贄として、生贄が足りないと騒ぐニョグタに捧げる為であった。
園長の正体はニョグタを信仰する食屍鬼である。元はドリームランドに住んでいたが、覚醒世界においても信者を獲得するべく《似姿》の呪文
で人間になりすましていたのである。
探索者達は園長の正体に気付いて、ニョグタを退散させる事が出来るのか。
はたまた、神父を疑い続け、生贄として捧げられてしまうのか。
依頼→地下礼拝堂→地下洞窟
・分岐1…呪文によりニョグタを退散させる。イリスが新しい園長になりハッピーエンド。
・分岐2…誰かを囮にして、ニョグタが外に出られないようにする。誰を囮にするかによって更に分岐。


ニョグタ、食屍鬼

3.シナリオの背景
ヴァチカンからの要請で、ボストンの教会から月絵町教会に異動となったスウェーデン出身の神父イリス=ユーホルトは、殆ど何も知らずに濡れ衣を着せられる。

4.NPCの紹介
イリス=ユーホルト(Gillis Juholt)
職業:聖職者(神父)
出身:スウェーデン
性別:男
年齢:22

STR:13 DEX:11 INT:13
CON:12 APP:14 EDU:16
POW:18 SIZ:10 SAN:90
アイデア:65 幸運:90 知識:75
ダメボ:0 耐久13 MP18 回避:22

〜簡易設定〜
義務教育で英語は喋る事ができる。
四年目の駆け出し神父。
真面目だがわりとフランク。
でも年上にさん付けは忘れない。
中性的童顔なのと、名前が英語圏だとどうしても女の子っぽく見られるのを気にしている。

聞き耳93
図書館93
歴史60
説得50
他の言語(ラテン語)60
回避72
目星70
写真術50
応急手当55
こぶし70

〜持ち物〜
白い手袋、クロス、ロザリオ、カメラ、黒い手帳、ボールペン

東 京(あずま きょう)
※人間時
職業:幼稚園園長(幼稚園教諭)
出身:日本
性別:男
年齢:52

STR:10 DEX:10 INT:13
CON:12 APP:8 EDU:19
POW:10 SIZ:12 SAN:50

〜簡易設定〜
数日前に亡くなっており、食屍鬼になり変わられている。

〜持ち物〜
・人間時からなり変わられてもずっと所持→愛用のコート、黒い手帳、ボールペン、ガラケー

※食屍鬼時
STR:16 DEX:12 INT:13
CON:13 EDU:13
POW:17 SIZ:13
ダメボ:+1d4
武器、装甲、技能は基本ルルブP180参照
呪文:
・《似姿》→基本的には基本ルルブP275《似姿の利用》と変わらない。
耐久力のダメージを受けた際、一時的に元に戻ることは無いが、傷を負った部位は半永久的に元の姿に戻る。
・《心の扉》→習得方法などについては深く考えてはいない。
1MP消費で自分の考えを相手に全く読ませない、あるいは考えを読もうとしていることを察知して、都合のいいように書き換えて読ませることができるようになる。
他人に掛ける場合は3MP消費で、考えを第三者に読ませないようにする事は出来るが、書き換えることは不可能。
どちらも一度の行使で24時間効果が続く。
・《美貌の仮面》→習得方法などについては深く考えてはいない。
1MP消費で自他共にAPPを5プラスできる。
・《施錠》と《解錠》→読んで字のごとく。覚える時には二つでワンセット。習得するための文章を読むだけで、1d3のSAN値と2MPを消費して即座に覚えることができる。《幸運》(人外の場合はPOW×5)判定成功と1MP消費でどんな鍵も半永久的に施錠できる。扉自体が破壊されるか、《解錠》を使わない限り鍵が開くことはない。解錠は判定成功と3MP消費。判定失敗時はMPのみ消費する。MPの続く限り、一日に何度でも行使できる。

5.ハンドアウト
PC2、もしくは上記NPC以外にNPCとして追加するとよい。

・職業は幼稚園教諭が望ましい
・新しくやってきた神父・イリスと仲が良く、好意的な印象を持っている。
・イリスについての情報→日本語の勉強を熱心にしている。今はまだひらがなしか書くことができない。

6.シナリオの流れ
幼稚園が休みになる前日、一般的には金曜日、探索者たちは東園長から呼び出される。
探索者が幼稚園関係者の場合は保育時間後に相談がある、として。
それ以外の場合は相談や依頼などで呼び出されるだろう。
時間は保育時間を終えた夕方である。
導入を午前中にするとよい。

【園長室】
入口にはひらがなで「えんちょうしつ」と書かれた看板と、同じく園児の絵で飾られ「えんちょうしつ」と書かれた紙が扉に張られている。
中に入ると、園児が持ってきたらしいおりがみの作品や園長らしき人物の似顔絵や園庭に落ちているような植物の類が、綺麗に棚に飾られている。
デスクには園長が座っており、探索者たちが入ってくると立ち上がって目の前のソファに腰掛けるようにすすめてくる。
《目星》に成功すると、思い悩んでいる様子であることが表情から分かる。
「園に隣接する月絵町教会の地下礼拝堂で、何やら怪しげな事が行われている、という噂が流れている」
「というのも、最近月絵町支部の信者(勿論カトリックの正規の信者である)が複数人行方不明になるという事件が起こっているからである。それとこれとは関係ないだろうというのが捜査の現状だ」
「最近新しい神父がアメリカからやってきたが、噂が流れ始めた時期的にも、その神父が怪しいのではないか、と私は踏んでいる」
「一人で調査するのは怖いし園長という立場上、何かあったら困る。一緒にきてほしい」
などと言って、探索者達に調査協力を依頼してくる。
《心理学》はこのシナリオでは殆ど役に立たないと言えるだろうが、ここで振った場合には成功失敗の如何問わず、「園長の表情通り、かなり思い悩んでいると感じるだろう」と園長を信じさせるような結果を伝えると良い。
外部依頼の場合は、ここで報酬の話をしてもいいだろう。

夕方であるため、今日はもう帰って明日に備えるように勧められる。
そのまま帰るべきであるが、それでも教会を見てみたいと探索者が望めば、ぐるっと外観を見て回ることは許可できる。


【月絵町教会・外観】
そこそこ大きく庭も広い、立派な教会である。
季節の花が綺麗に植えられており、とても雰囲気が良い。
ここで探索技能を使っても特に何も見つからない。

この場面で周りを見ていると、亜麻色の髪の神父を見つけるだろう。
彼こそが、東園長の疑っているアメリカからやってきた神父・イリスである。
特に探索者が無理にでも中に入ろうとすると、カタコトでぎこちなく話しかけてくるだろう。
「ごめんね。今日は、閉めたんだ」
もし言葉の意味が分からなければ、ハンドアウトを持つPC2およびNPCには、夕方になると教会の扉を閉めるのだということが分かる。
イリスの日本語はまだあまり上手ではないが、彼に友好的なPC2およびNPCはどうにかして彼の言うことを理解してあげようとするだろう。

PC2およびNPC以外の探索者は、イリスと会うのは初めてかもしれない。
ここでイリスと初めて出会った場合、イリスはその相手に対して、自動的に美貌ロール(1d100<=70)をシークレットダイスで振ることになる。
成功→美貌ロールを受けた探索者は、「美しすぎて怖い」と感じるだろう。
(これは《美貌の仮面》を受けている為であり)
探索者は0/1のSANチェック。
失敗→綺麗な顔立ちの青年だとは思わせる。
失敗したものの、より怪しませたければ、もう一度シークレットダイスで《幸運》ロール(1d100<=90)をさせると良い。

男性にしては少し長めで肩まで伸びている、細くサラサラした亜麻色の髪。青みがかった緑の瞳。背は低く全体的に線が細い。顔立ちも中性的で、美しく整っている。
体格が分かりやすく、また神父であると分かる黒いキャソックを身につけていなければ、一見女の子のようにも見えるだろう。

イリスは探索者が帰るまで、探索者が見える位置に必ずいるか、教会の扉の前でニコニコして立っているだろう。
誰かが誤って入ったままにならないように見張っているに過ぎないが、不気味だと感じさせられればそれはそれで良いミスリードではないだろうか。
もしも探索者の誰かが、園長から疑われているとイリスに忠告した場合、
「そっか……気をつけるね」
と少し悲しそうに笑って肩を竦める。
実は探索者の言っている言葉をあまり理解してはいないが、表情で何か忠告されていると類推して答えているだけである。
これもミスリードになるだろうが、この段階で探索者があまりにもイリスへの疑いを濃くした場合には、PC2およびNPCに、「意味が分かっていないのではないか」と気付かせるとよい。


探索者がそのまま帰った場合は、単独もしくは複数で《図書館》《コンピュータ》を振ることができ、成功すればコンピュータなどで月絵町教会について調べることが出来る。
また、複数人成功した場合は、最近月絵町で起こっている行方不明事件について詳しく知ることができる。

情報は以下のとおりである。

〜月絵町教会ホームページにて〜
・司教、司祭の情報がある。日本人もいるが外国人もいる。その中には新しくやってきたイリスの簡単なプロフィールもある。
・イリス=ユーホルト……スウェーデン出身。22歳。アメリカ(マサチューセッツ州ボストン)の教会から一ヶ月前に異動。
・地下聖堂では、毎週日曜の昼前から外国人向けのミサをまもっている。毎日8時から17時までは自由に出入りできる。

〜ニュースサイト〜
正規のニュースサイトではなくオカルト系のニュースサイトに辿り着く。
・ここ一ヶ月間で、届け出が出ている限り五名は行方不明になっている。
・地下礼拝堂の噂の事や、その噂との関連性については、東園長が言ったこととほぼ同じようなことが書かれている。
・近隣住民の混乱を避けるためにも詳しい事が分かるまではあまり表沙汰にはされていない。

【月絵町教会】
前日に外観を見ていない場合は、【月絵町教会・外観】を参照のこと。
東園長と合流して、初めて乃至もう一度探索したとしても、特になにも見つからないだろう。
「外にだけは決して証拠を出すまいとしているんだろう」と、園長は推測を語っても良い。

前日に外観を見ていても見ていなくても、教会の周りを何やらぶつぶつ呟きながら散歩しているイリスと出会うだろう。
(ここでイリスと初対面の場合は【月絵町教会・外観】のシークレットダイスが入る)
何をしているのか聞かれても聞かれなくても、イリスは「日本語のべんきょ、してるの」と、自分のものらしき黒い手帳を振って人懐こく微笑む。
イリスは日本語を読むこと、喋ることは出来るが、字を書くことができない。
東園長は「ああ、イリス神父ちょうどいいところに」と乾いた笑みを浮かべる。そして探索者を示し、
「地下礼拝堂でちょっとした冒険ですよ。イリス神父もご一緒にいかがです?」
と誘う。
イリスは喜んでついてくるだろう。探索者が嫌がるそぶりを見せても、大抵の事では帰らない。
そもそも、探索者によっては彼の力が必要となる場面もあるため、キャラシ次第では東園長やNPCを駆使して、ついて来させざるを得ない状況まで持ち込むと良い。
また、何故園長が嘘をついてまでイリスを連れて行こうとするのかなどと探索者が疑い始めるなら、園長はそっと「ご本人がボロを出して、調査が捗るかもしれない」「なに、数ではこちらが勝っている。もし何かあっても抑えられるだろう」と耳打ちしてくるだろう。

地下礼拝堂に入る直前、探索者には《幸運》もしくは《聞き耳》のどちらか高い方を振ってもらう。

→《幸運》および《聞き耳》成功
地下の方で、何かが引きずるような音がした気がする。

→さらに《アイデア》成功
その音はズルズルと引きずるような、何かが這い回る様な音で、自分達の知る地下の生き物が活動する音ではない。
得体の知れない音を聞いた探索者は0/1のSANチェック。

→→失敗
モグラか何かだろう。よくよく周りを見ると土がぽっこりと盛り上がったモグラの通り跡があるのがわかる。

【月絵町教会・地下聖堂】
地下聖堂の中は思ったよりも広い。
石造りの頑丈そうでありながらどこか冷たい雰囲気を、オレンジ色の少し暗めの電灯で和らげ温かみのあるものにしている。
同じく石造りの床には毛足の短い絨毯が敷かれ、木製の長椅子が横4列、縦5列に綺麗に並んでいる。
階段をおりてすぐ、つまり最初に探索者が立っている位置はその椅子のちょうど左端の後列側であり、前側の一段高い位置にある祭壇の全貌を見ることはできない。
後ろには腰の高さほどの低い木の棚が置かれており、聖書や聖歌集などが整頓して並んでいるのがわかる。
また、部屋には聖歌らしきオルガンの伴奏の音が流れている。
ここまでが、何の技能も振らずに分かる情報である。

→《目星》成功
祭壇は簡素ではあるがよくある配置だ。
部屋の右端には音の正体であろうオルガンが置かれている。
しかしそのオルガンの前には、演奏者がいないのである。

→さらに《アイデア》および《知識》(どちらか高い方)成功
このオルガンはどう見ても年代物の足踏み式オルガンであり、足踏み式独特の空気の抜けるような音がする。
つまりこのオルガンは、無人では音が出ないにもかかわらず、無人で勝手に音を奏でているのだ。
その事に気付いた直後、曲の終わりであろうフレーズが流れ、まるでこちらの反応に気付いたかのように演奏がぴったりと止んでしまう。
このような奇妙な現象を体感し肌寒さを覚えた探索者は0/1d3のSANチェック。

→→失敗
自動演奏は今時珍しくないと思うだろう。
曲の終わりであろうフレーズが流れ、演奏はぴたりと止む。
とても聖歌らしい、荘厳で良い曲だった、と感動さえ覚えるだろう。

これらの処理が終わった後、KPは東園長とイリスもシークレットダイスで《目星》させておく。
その後、ここではない、壁を隔てた近くで何かが倒れるような、落ちるような音がする。
二人がどのような結果になってもイリスは《目星》成功し、後ろの壁、木の棚の向こうの一部に違和感を抱くだろう。

「ねえここ、何かヘン」

イリスの指差した先には、壁のちょうど真ん中に真っ直ぐな溝があるのが分かるだろう。
棚は簡単にどける事が出来るのでそれらを取り除くと、かすがいが縦に刺さっているような細い金属の持ち手があり、扉のようになっているのではないかと皆が気付く。
探索者はもちろん、園長もイリスも何だこれは、という反応を見せるだろう。
扉の前で探索技能を使っても特に何も情報は得られない。
先程の音は扉の向こうでしたものだと気付くだろうが、それ以降は目立った音も聞こえない。
扉は、探索者の誰かが試してもいいし、誰も開けようとしなければ園長が試してもいいが、押しても引いても開くことはない。
しかしここでイリスが「これ、横じゃ?」と指摘することで横開きの扉であることが分かる。(無論ミスリードである)
探索者が最初から横開きにしようとしたならドアは何事もなく開くが、イリスには「うん、横だ」と満足げに言わせると良い。

決して軽やかとは言い難いが、横開きのドアはゆっくりと開く。
開いた直後、異臭が鼻につく。
探索者には《聞き耳》を振らせる。

→《聞き耳》成功
異臭の正体は血と腐敗臭だ。
ここで大勢が血を流し、亡くなったのでは、ということを瞬時に考えてしまう。
探索者は0/1D4のSANチェック。

→→失敗
異臭の正体について、何の臭いかは分からないが、不快であることに変わりはない。
他の誰かが異臭の正体を血と腐敗臭であると伝えた場合は0/1のSANチェック。
このSANチェックは入れても入れなくてもいい。今までの減り具合などを考慮してKP裁量で。

【地下洞窟】
扉の内側には取手が無いため、中に入って手を離すと扉は閉まってしまう。
先程の園長のシークレットダイスによって《施錠》の呪文が掛かった事になるため、鍵も勝手に閉まるのである。
開け放しにするには完全に開けた状態で誰かが立っておかなければ不可能である。
閉じ込められた恐怖から探索者は0/1d3のSANチェック。
探索者の誰かが気付いて咄嗟に何かを挟んでもよく、それ自体はDEXにかかわらず自動成功になるが、大体のものは砕かれるなり潰されるなりしてしまうだろう。
もしも足や手などを挟んだ場合は、耐久力に1D3のダメージ。
また、足や手を挟んだ者は、開ける時には想像も付かなかった強い力に驚き慄いた事から、0/1のSANチェック。
閉じ込められたので助けを呼ぼうとするだろうが、地下には電波が届かないため、スマートフォンや携帯電話などの表示は圏外になっていることを伝えると良い。
もしもイリスへの疑いが強く、外への出方を知っているのではないかと指摘するならば、イリスは「僕、分からない。でも、ここを調べてたら、何かヒント、見つかるかも?」とぎこちなく答えるだろう。適宜園長に煽らせても良い。

■部屋1
洞窟には聖堂と似たようなほの明るい電灯が灯っている。
洞窟といっても自然なものではなく、荒削りされた部屋のようになっている。
部屋の奥は細く廊下のようになっていて、その先は暗くここからはどのようになっているのか分からない。
見渡す限りでは、ささくれ立った木の机と、同じような材質の椅子が四個置かれている。
ここでシークレットダイスを用いて、1D人数(NPCも含む)を振り、更に1D先程出た数値-1を振る。机の上に何個懐中電灯があり(一回目)、何個まだ壊れていないか(二回目)を判定する為である。
二回目のダイスは1D0になる場合のみ振らない。最低ひとつは用意してあるようにする。
スマートフォンや携帯電話、その他探索用に探索者が何か明かりになるものを用意していたのならばこの限りではない。
ただしイリスは明かりになるようなものを何も持ってきていないし、園長は古いガラケーで充電があまりもたないからと明かり目的では使おうとしないだろう。
此処までが判定なしで分かる情報であり、何も無ければ園長が机の上の懐中電灯を取ろうとする。
案の定異臭は強くなっているが、探索者が見渡す限りでは血痕や死体などはない。

しかし次の瞬間、血塗れの何かが机の下から飛び出して、園長の足に噛み付いたのである。
園長は驚いて尻餅をつくだろう。
ゴムのような弾力のある皮膚を持ち犬のような顔をしたその化け物は、蹄状に割れた足と鉤爪で地面を抉るように突き立てて這いつくばりながら、園長の足にかじりついている。
突然現れた化け物……食屍鬼を目撃した探索者は0/1D6のSANチェック。

血塗れであることから分かるように、この食屍鬼は瀕死である。
DEXの高い順に行動して、一度でも攻撃技能判定に成功すれば、ダメージ量に問わず食屍鬼を倒すことが出来る。
1ラウンド目で倒せなかった場合、2ラウンド目以降は食屍鬼もDEX順に行動し、園長に噛みつき続ける。
その際、ルルブにある「食屍鬼の攻撃」の通り園長の耐久力に1D4のダメージを与え続ける。
園長は基本的に腰を抜かしていて行動できない。
自身が裏切ったも同然とはいえ、かつて仲間であった同族に反旗を翻されて、戸惑っているのである。

食屍鬼が倒される瞬間、《聞き耳》を振ってもらう。

→《聞き耳》成功
食屍鬼が、特有の早口かつ泣くような声で「ユルサナイ」と言ったのが聞こえる。
何を許さないのか、誰を許さないのかはっきりしない物言いに、もしかしたら自分達に対してなのでは……という不安にかられる。
おぞましい化け物の恨みのこもった最期の言葉を聞いた探索者は0/1d2のSANチェック。

→→失敗
食屍鬼が最期に唸ったように聞こえるが、何を言ったのかまではわからなかった。

園長のHPは治療技能で回復する事が出来る。
しかし、足首の皮が剥がれたようになっていて、その部分が茶色く変色しているように見えるだろう。
その傷跡のようなものはどれだけ回復しても治すことが出来ない。
(本体が露出してしまった部分だからである)


■廊下
廊下は電気など全くついていない為とても暗い。懐中電灯やその他明かりがなければ進めないだろう。
壁面はごつごつとしており殆ど自然のままであることが分かる。
人が二人並んで何とか通れるくらいの広さで少し長めである。
三人以上の場合はここで順番を決めさせておく。

途中で二手に分かれているが、ここで《目星》を振っても特に違いは見受けられない。

→《聞き耳》成功
右側の道から強い異臭がする。
洞窟に入る前の《聞き耳》に成功している者や、成功者から結果を聞かされていた者は血と腐敗臭が特に強くなっているのだ、と気付く。
前者にも後者にも当てはまらない者がこの《聞き耳》で初めて成功した場合は《アイデア》を振らせ、血と腐敗臭であることを知らせて0/1d4のSANチェック。

右の道の先にはまだかろうじて生きている食屍鬼が共食いしたり犠牲者を食べたりしているだけなので行く必要はあまりないが、SAN減らしが足りないと感じたり戦闘要素を入れたければ導くといい。
イリスのネガキャンが有効な場合は、此処で露骨に右を嫌がらせればいいし、園長に煽らせて右に導くなどすると良いだろう。

〜右へ行く〜

→《目星》成功
突き当たりがガラス張りになっていることが分かる。
ガラス越しに、縋るようであったりズルズルと倒れこむようであったりする手の血痕が無数についている。
中々恐怖心を煽るので0/1のSANチェック。
足元の方は既に割れており、先程の食屍鬼が割って這って出てきたのではないか、と気付くことができる。

→→失敗
最前列の者が失敗した場合、突き当たりがガラス張りになっていることに気付けない。
他の成功者が注意を呼び掛けない限り、ガラスに思い切りぶつかってしまう。
《幸運》ロールで1/1d3のダメージを負う。
また、成功時と同様、ガラス越しに、縋るようであったりズルズルと倒れこむようであったりする手の血痕が無数についている。
中々恐怖心を煽るので0/1のSANチェック。
足元の方は既に割れており、先程の食屍鬼が割って這って出てきたのではないか、と気付くことができる。

どちらにせよ、ガラス張りに気付いた後はイリスが白手袋をはめて、「ちょっと、下がってて」と言い、《こぶし》技能で割ってくれる。
シークレットダイスで振り、成功でも失敗でも割れたことにして良い。
(ミスリードになるか好感度アップになるかのどちらか?)

■部屋2R
警戒して中を覗くだけなら、中にいる食屍鬼に気付かれることはないだろう。

中を覗くと、一体の食屍鬼が食事中であった。
食屍鬼とは一度出会っているため、0/1d6の出た目の半分の切り上げのSANチェックで済ませる。
しかし、その周辺は精神を確実に擦り減らすような凄惨なものだ。
人間も食屍鬼も入り混じり、そこら中に血だまりを作って倒れ伏している。
どの死体も何らかの部位が欠損しておりとても状態が酷い。
まさに死屍累々という言葉通りの現実を目の当たりにした探索者は1/1d4+1のSANチェック。

食事中の食屍鬼自体も傷を負っていて弱っているのが見て取れる。
ゆえに食事にとても集中しているのが分かるだろう。
食われているのは人間で、ぐったりしているがきちんと原形をとどめている女性であることが分かる。
覗くだけでは生死の判定は付かない。(実際は死んでいる)

食屍鬼に気付かれる事なく中に入ろうとする場合は《忍び足》もしくは《隠れる》などに成功しなくてはならない。
二度成功した者のみ不意打ち成功の戦闘に入ることができる。
この食屍鬼のデータは基本ルルブP180のものだが、弱っているので耐久力は3分の2の10、もしくは半分の7にしてもよい。
この戦闘には園長(能力値はは人間時のもので戦闘技能は初期値)、イリスも参加でき、二人を加えたランダムで攻撃対象を選ぶ。
戦闘に入れば自分のターンで食べていた女性をぽいと投げるので、その時に女性は既に亡くなっていることが分かるだろう。
攻撃せずに逃げることも可能だが、全員が逃げ切るには全員が食屍鬼とのDEX対抗ロールに成功しなければならない。
失敗した者のみ無闇に1ラウンド消費して、失敗した者の中からランダムで攻撃対象が決まる。
成功した者が戻って失敗した者を引っ張る場合はSTR対抗に成功した上で引っ張る側が食屍鬼とのDEX対抗に成功しなければならない。
倒した場合も、逃げ切った場合も、最後に《聞き耳》をさせる。

→《聞き耳》成功
食屍鬼が、特有の早口かつ泣くような声で「ドウシヲ、カエセ」と言ったのが聞こえる。
先程倒した食屍鬼の事だろうか?  それとも……?
何にせよ心当たりが無いわけではない探索者は0/1d2のSANチェック。
部屋1の食屍鬼を倒した者は0/1d3。

→→失敗
食屍鬼が最期に唸ったように聞こえるが、何を言ったのかまではわからなかった。

※ここで園長が再び傷を負った場合も、傷を負った部分が茶色く変色したように見える。


〜左へ行く〜

道中に黒い手帳が落ちている。
名前は書いていない。比較的新しい。
これは園長になりすましている食屍鬼のものであり、ニョグタの召喚などについて書かれている。日本語で漢字混じり。
そんなに沢山書いてあるわけでもないので、パラパラと拾い読みするだけなら特に技能は必要ない。
ただし、手帳は小さく辺りも暗いので、共に読むならば二人が限界だろう。

・あの方をついにお迎えした。一週間に一度、一人の生贄を捧げることで一つの呪文をいただくことができる。自分に力が付けば、いよいよ覚醒世界をあの方と共に……。
・あの方は生贄によって好みの部位があるらしく、それ以外は吐き捨ててしまわれる。しかし量は一人分に相当しなくては満足していただけない。
・もっと生贄が必要だ。信者の中からも何人かお捧げしているが到底足りない。
・あいつは使える。あいつを利用して、馬鹿共をおびき寄せればいい。あいつが死んだ時はその時だ。

何が何だか分からないが、おぞましい野望の一端を見た探索者は0/1d3のSANチェック。

園長はイリスのものだろうと主張するだろう、が……。
ここで《アイデア》を振らせる。ハンドアウト持ちのPC2およびNPCのINTが低い場合には適宜補正を入れても入れなくてもいい。
トゥルーエンドに近付けさせたければ、なるべくこの《アイデア》に成功するように努めた方がいいし、バッドエンド等に向かわせたければ、この《アイデア》自体振らせなくてもいいかもしれない。
また、PL自身がメタで思い出した場合は、《アイデア》を振って成功が出れば、以下のことに思い出したことにしてよい。

→《アイデア》成功
イリスはまだひらがなしか書くことが出来ない、ということに気付くだろう。
「何だか難しそう、なんて書いてあるの?」とイリスに覗き込んで言わせて追い打ちをかけてもいい。
つまりこの手帳はイリスが書いたものではないと分かる。

廊下の突き当たりには扉がある。
探索技能を振っても特に何もない。
扉の先にも特に何もないので普通に入っても問題ない。

■部屋2L
カビ臭い、質素な研究所のような狭い部屋だ。
背の高い本棚がアーチのように出迎えてくれる。その先には机と椅子が一つずつ、机の上には卓上電灯が置かれているのが見える。
本棚の本は一見しても背表紙がどれも黴びている。カビの臭いはここからかもしれない。

探索者が何か行動をしようとするよりも先に、ズルズルと引きずるような、何かが這い回るような音と共にがくがくと探索者達が立っている地面が揺れる。
ばさばさとカビ臭い本が数冊落ちてきて、もわんと臭いを立ち込めさせるだろう。

→《幸運》成功
揺れが収まるまで何とか立っていられる。
また、地下聖堂に入る前の《幸運》および《聞き耳》→《アイデア》のいずれかに失敗した者でもSANを減らさずにいられる。

→→《幸運》失敗
転んで尻餅をついたり、落ちてきた本の角が頭に当たる。耐久力に1ダメージ。
また、地下聖堂に入る前の《幸運》および《聞き耳》→《アイデア》のいずれかに失敗した者は、この世の生き物とは到底思えない得体の知れない音を聞いて0/1のSANチェック。

必ず園長は前のめりに転んでしまう。耐久力ダメージも食らう。
転んだ拍子に、園長はコートのポケットから手帳を落とすが、偽園長はコートの中のそれに今まで気付いていなかったため、落としたことにすら気付かないのである。

→《目星》成功
本棚から落ちた本に紛れて、使い古された小さな黒い手帳が落ちている。
これは本物の園長が常にメモとして携帯していたものだ。勿論すべて日本語。

誰が拾ったのかを確認した上で、拾った者の《幸運》で振ってもらう。

→《幸運》成功
探索者は手帳を表紙から順に読むことができる。

→→失敗
探索者は手帳を裏表紙から開いてしまう。
そこには「ねこま幼稚園  園長 東  京(あずま  きょう)」と書かれている。
園長がたった今落としたものだと分かるだろう。
園長に返さねば、と思うかもしれない。(《アイデア》を振らせてもいい。失敗なら手帳を読み始めてしまってもいい)

ぱらぱらと捲ると、最初の方は毎日の園内の様子が事細かに記されていることが幼稚園関係者でなくとも分かるだろう。
これは幼稚園教諭が書いたものだと誰でも分かるだろう。
重要な情報を得るためには《図書館》を振ってもらう。

→《図書館》成功
前半の方を読んでいたとしても、ページが急に後半の方に飛ぶ。
それだけ何度も開かれているのだということが何となく分かるだろう。
情報は以下の通りである。

・ついに地下の化け物どもが動き出した。
うちの信者まで巻き込むとは由々しき事態である。
ずっと居るのはわかっていた。わかっていながら何も出来なかった。
否、何もしなかったのだ。
・地下聖堂の後ろにあんな扉があったなんて気付かなかった。
その向こうがあんな部屋になっているとも……。
化け物ども……グールにも知性はあるらしい。これは厄介だ。
・グールどもは何かを信仰しているらしい。勿論私達の主ではないことは確かだ。その信仰対象を召喚する儀式を行うらしい。早口で何を言っているのか聞き取りづらい。
・酷い。なんというおぞましい儀式なのか。人間もグールも関係無く、グールの信仰対象・ニョグタはそれらを傷付け地下に引き摺り込んでしまう。
グールどもの長が読んでいる書物、何が書いてあるのかはよく分からない。私の持っているあれと同じ事が書かれているような……。
・グールどもの長に気付かれた。今日は何とか逃げおおせたがもう時間が無い。例の書物とあれを照らし合わせたが同じ事が書かれていた(何処でこれを手に入れたのやら)。
何枚か持ってきたが、ラテン語で書かれている呪文はグールどもの長が新しく覚えた呪文と同じようだ。そういえば、ラテン語なら新しくやってきたイリスが読めるんじゃないか。機会があれば解読してもらおう。
・誰かがいつかこの地下に誘われるかもしれない。その時は本棚に隠したあれを見つけて、グールどもが信仰するあのニョグタを追い払ってくれる事を祈るばかりだ。
・ただ、ニョグタは意外と素早い。あれを使う際には囮が必要かもしれない。

手帳の最後にはこう書かれている。
・「ねこま幼稚園  園長 東  京(あずま  きょう)」

目の前にいる園長は地下聖堂の調査には一人では行けない、と言っていたのに、この手帳には地下聖堂ならびに洞窟の調査結果が記されている。
この園長が本物なのかどうなのか分からなくなってしまった探索者はえも言われぬ混乱と文章からも感じ取ることのできる恐怖に肌があわだつだろう。
0/1d6のSANチェック。

→《目星》成功
びっしりと文字の書かれた紙皿が二枚見つかる。

(《知識》もしくは《オカルト》成功で、月絵町で密かに有名になりつつあるオカルトカフェの名物メニューについてくる、何かしらの呪文の書かれた紙皿であることが分かる)

・一枚目  ヴァク=ヴィラ呪文
ラテン語で「ニョグタの退散のためのヴァク=ヴィラ呪文」と前書きしてある。
呪文の使い手は3MPと1d10のSANを失う。
呪文内容は以下の通り。

Ya na kadishtu nilgh’ri stell-bsna Nyogtha;
K’yarnak phlegethor l’ebumna syha’h n’ghft.
Ya hai kadishtu ep r’luh-eeh Nyogtha eeh,
S’uhn-ngh athg li’hee orr’e syha’h.
や な かでぃしゅとぅ にるぐふ・り すてる-ぶすな にょぐさ
く・やるなく ふれげそる る・えぶむな すぃは・ふ ん・ぐふと
や・はい かでぃしゅとぅ えぷ る・るふ‐ええふ にょぐさ ええふ
す・うふん‐んぐふ あすぐ り・ふええ おるる・え すぃは・ふ

・二枚目 《施錠》と《解錠》
簡単な説明が前書きしてある。

二つでワンセットの呪文を即座に覚えることができる文章。ラテン語。
習得するための文章を読むだけで、1d3のSAN値と2MPを消費して即座に覚えることができる。《幸運》(人外の場合はPOW×5)判定成功と1MP消費でどんな鍵も半永久的に施錠できる。扉自体が破壊されるか、《解錠》を使わない限り鍵が開くことはない。解錠は判定成功と3MP消費。判定失敗時はMPのみ消費する。MPの続く限り、一日に何度でも行使できる。

イリスが興味深げに覗き込んでくるだろう。
すぐに訳して、手帳に意味や発音をさらさらっと平仮名だけでメモして、紙を破って探索者に渡してくれる。

《施錠》と《解錠》の呪文があれば引き返して帰ることも可能だろう。
しかし、園長の遺志を汲むならば進む道を選ぶべきである。
部屋の奥には扉があり、次の  部屋3に繋がっている。
ここから分岐が発生するため、ここでは部屋3は概要のみ説明する。
この部屋か部屋3において、園長は偽物であると探索者達に暴かせてもよい。
偽園長は正体を暴かれると、残念そうに笑いながらも言い訳などせずにすぐに正体を現すだろう。
食屍鬼とは一度ないし二度出会っているため、0/1d6の出た目の半分の切り上げのSANチェックで済ませる。
戦闘に入る場合は、※食屍鬼時の園長のデータで戦わせる。
逃走する場合は、次の項でのバッドエンド2を参照のこと。

■部屋3  概要
むっとするような死臭が鼻につく。
地面にも土壁にも乾いた血痕が大量に残っている。
そしてその中で唯一血で汚れていない、頑丈そうな金属の壁が目の前で閉ざされている。
偽園長ないし誰かが《解錠》の呪文を使用すれば、壁は上に開く。
吐き気を催すほど強くむせ返るようなジャコウに似た匂いが漂う。
仄暗い灯りの下ではよく分からないが、黒っぽい玉虫色の体を持つゼラチン質の生き物が、ズルズルと聞き覚えのある音を立てながら這い出てくる。
本物の園長の手帳を読んでいれば、それがニョグタであることはすぐに分かるだろう。
ニョグタという恐ろしい存在を目の当たりにした探索者は1d6/1d20のSANチェック。
ニョグタが現れれば、すぐに戦闘に入る。
本物の園長の手帳を読んでいても読んでいなくても、即座に囮を決めなければならないと本能的に考えるだろう。
たとえ狂気に陥っていたとしても。
KPは咄嗟の行動でニョグタのDEXに勝利した事にして、PC1に「誰の背中を押しますか?」と問うといい。


7.分岐と結末
バッドエンドはしばしば複合で起こる場合がある。
退散の呪文を使わない場合、大抵バッドエンド。


〜バッドエンド1  「絶望の糧に」〜
・園長の正体を暴かない
↓
・部屋3に行かずに、《解錠》の呪文を使って帰る
もしくは
・自分以外の誰かを囮にして退散の呪文を使わずにニョグタから逃げる(園長以外を囮にすると、別のバッドエンドも複合で起こる)

偽園長は何としてでも探索者を生贄として捧げようとするだろう。
帰り際には「調査に協力してくれてありがとう」などと感謝の言葉を述べるが、帰り道こっそり後をつけて後ろから……

探索者は抵抗するすべもなく意識を失い、次に目を覚ました時にはあの洞窟の最奥部にロープで縛られて転がされていることに気付く。
むっとするような死臭が鼻につくし、地面にも土壁にも乾いた血痕が大量に残っている。
そしてその中で唯一血で汚れていない、頑丈そうな金属の壁が目の前で閉ざされている。

偽園長が《解錠》の呪文を唱えると、その壁はキイイと耳障りな音を立てて上に向かって開かれる。
それと同時に、吐き気を催すほど強くむせ返るようなジャコウに似た匂いが漂う。
仄暗い灯りの下ではよく分からないが、黒っぽい玉虫色の体を持つゼラチン質の生き物が、ズルズルと聞き覚えのある音を立てながら這い出てくる。
体の縁から小さな指を伸ばし、探索者を掴むと……

今際の際に、探索者は思うだろう。
月絵町はこれからも、この化け物達によって脅かされ続け、食屍鬼の長によってイリスは利用され続ける。
そして、この化け物はやがては世界中を覆い尽くす脅威になるだろう、その脅威の一歩を踏み出す糧に自分達はなってしまうのだろう、と……。


〜バッドエンド2  「放たれた脅威」〜
・園長の正体を暴く
・部屋3に行かずに、《解錠》の呪文を使って帰る
もしくは
・園長の正体を暴く暴かないに拘らず、部屋3に行き、自分以外の誰かを囮にして、退散の呪文を使わずにニョグタから逃げる(園長以外を囮にすると、別のサッドエンドも複合で起こる)

偽園長は正体を暴かれるとすぐに正体を現すだろう。
探索者は戦闘に入るか逃走するかに分かれるはずだ。
戦闘に入る場合は、※食屍鬼時の園長のデータで戦わせる。
逃走する場合はそのデータでのDEX対抗ロールで競わせる。
どちらにせよ、偽園長はこの場で倒されなくてはならない。
逃走成功した場合には、背後で偽園長が襲われる音が聞こえるだろう。
振り返ると、無数の瀕死の食屍鬼たちが偽園長にまとわりつき噛み付いている。

そして、どの場合も死ぬ間際に《解錠》の呪文を唱えるだろう。
ニョグタを放つためである。

仮に《施錠》の呪文を洞窟の入口の扉に施したとしても、ニョグタはその扉を破壊して外に出ることが出来るだろう。
翌日のニュースで、月絵町教会の地下からおぞましい生命体が這い出て、神父やシスター、近隣住民を見境なく貪っているという報道が流れる。
現場付近の中継をしているリポーターも掴まれ引きずられ、カメラマンなどは無数の傷を付けられ自身の血飛沫を映しながら倒れ、そこで中継が途切れてしまう。
探索者は咄嗟にテレビを消しながら、悟るだろう。
遅かれ早かれ自分達もああなってしまう。そんな脅威となる化け物が世に放たれてしまったのだ、と……。

〜サッドエンド1 「だいすきな  ひとたち」〜
・部屋3に進み、呪文を唱える際に囮をイリスにした場合。
・園長の正体は暴いていても暴いていなくてもいいが、暴いていない場合にはバッドエンド1が発生する。もろもろ終わった後で園長の正体を暴いてもいい(要戦闘)。
暴いている場合でも、退散の呪文を使わない場合にはバッドエンド2が発生する。

ここでは、サッドエンドのみで終わる場合についてのみ説明する。

イリスの背中を押すと、彼は咄嗟に振り向きながら、美しい顔を驚きと悲しみに歪めるだろう。
「どうして……」と力無く言い終えるより速く、ニョグタの触肢はイリスの細い体をいとも容易く絡め取って引きずっていくだろう。
イリスに対してどのような感情を抱いていたかにもよるが、敵対視していた場合でも人が確実に死ぬであろう場面に直面したということで0/1d4、友好的な感情を抱いていた場合には0/1d6のSANチェック。

絡め取られた時の衝撃で、イリスのキャソックのポケットから黒い手帳が飛び出して落ち、その場に残されるだろう。
呪文の使い手が狂気状態で行動不能であるにせよ、そのまま逃げるにせよ、ニョグタはイリスの体を吟味中であり時間の猶予は沢山あることを伝えて良い。
狂気状態が回復する・回復されるまで待って退散の呪文を使用しても何ら問題はない。

退散の呪文を受けたニョグタは、イリスの体を攫ったままここではない何処かへ消えていくだろう。
イリスだったものは、何も残らない。
残されたのは、彼の黒い手帳だけ。

エンディングにおいて彼の手帳を読むことができる。
最初の方はひらがなの練習に使ったページだろう。「む」や「ま」などがまだ鏡文字で、ぎこちない文字が所狭しと書かれている。
ひらがなで単語を書き、その横に英語を書いて必死に覚えようとしている様が目に浮かぶようだ。
そして途中からは、ひらがなだけの日記のようになっている。

きょうかいの  ひと  みんな  いいひと
ようちえんの  ひと  も  みんな  いいひと
まだ  みんな  には  あえてない
でも  みんな  きっと  いいひと
ぼくの  だいすきな  ひとたち

〜サッドエンド2〜
・部屋3に進み、呪文を唱える際に囮をPC2およびそれに相当するNPCにした場合。
副題はそのキャラクターに合わせて変わると思うのであえてつけていない。
・園長の正体は暴いていても暴いていなくてもいいが、暴いていない場合にはバッドエンド1が発生する。もろもろ終わった後で園長の正体を暴いてもいい(要戦闘)。
暴いている場合でも、退散の呪文を使わない場合にはバッドエンド2が発生する。

ここでは、サッドエンドのみで終わる場合についてのみ説明する。

PC2およびNPCの背中を押すと、PC2ならばそのPLに反応をさせればいいし、NPCならばKPがそのキャラクターに合った反応をすればいい。
ニョグタの触肢はその体をいとも容易く絡め取って引きずっていくだろう。
PC2およびNPCに対してどのような感情を抱いていたかにもよるが、人が確実に死ぬであろう場面に直面したということで0/1d4、友好的な感情を抱いていた場合には0/1d6のSANチェック。

呪文の使い手が狂気状態で行動不能であるにせよ、そのまま逃げるにせよ、ニョグタはPC2およびNPCの体を吟味中であり、時間の猶予は沢山あることを伝えて良い。
狂気状態が回復する・回復されるまで待って退散の呪文を使用しても何ら問題はない。

退散の呪文を受けたニョグタは、PC2およびNPCの体を攫ったままここではない何処かへ消えていくだろう。
PC2およびNPCだったものは、何も残らない。

演出次第ではサッドエンド1のような演出があってもいいかもしれない。
(PC1とPC2が仲良しだった場合には、スマホが残されて、開くとロック画面には仲睦まじそうな写真が……など)

〜サッドエンド3  「自己犠牲」〜
・部屋3に進み、呪文を唱える際に囮をPC1(「誰の背中を押しますか?」と問われ、「誰の背中も押せない」「咄嗟に自分が前に出る」と答えるなど)にした場合。
・園長の正体は暴いていても暴いていなくてもいいが、暴いていない場合にはバッドエンド1が発生する。もろもろ終わった後で園長の正体を暴いてもいい(要戦闘)。
暴いている場合でも、退散の呪文を使わない場合にはバッドエンド2が発生する。

ここでは、サッドエンドのみで終わる場合についてのみ説明する。

この宣言の後即座にPC2およびNPCに所謂主人公の座が明け渡されることになる。
PC2およびNPCの視点でサッドエンド2とまったく同じ事が起きるので、詳細はサッドエンド2を参照のこと。

〜トゥルーエンド  「訪れた平穏と新しい園長」〜
・部屋3に進み、呪文を唱える際に囮を偽園長もしくはイリス、PC2およびNPC、PC1以外の何か(たとえば  部屋1や  部屋2Rで倒した食屍鬼の死体)にして、退散の呪文を使用した場合。
・後者を囮にした場合、園長の正体は暴いていても暴いていなくてもいいが、暴いていない場合にはもろもろ終わった後、偽園長との戦闘が必ず起こる。

ここでは、まだ偽園長の正体が暴かれておらず、生きている場合のみ説明する。

偽園長の背中を押すと、偽園長は信じられないといった表情になり、呆然としたままニョグタの触肢がその体をいとも容易く絡め取る。その瞬間、《似姿》の皮は打ち付けられた際の無数の傷によって完全に剥がれ、偽園長の正体を暴いた状態で引きずっていくだろう。
食屍鬼とは一度ないし二度出会っているため、0/1d6の出た目の半分の切り上げのSANチェックで済ませる。

呪文の使い手が狂気状態で行動不能であるにせよ、そのまま逃げるにせよ、ニョグタは偽園長の体を吟味中であり、時間の猶予は沢山あることを伝えて良い。
狂気状態が回復する・回復されるまで待って退散の呪文を使用しても何ら問題はない。

退散の呪文を受けたニョグタは、偽園長の体を攫ったままここではない何処かへ消えていくだろう。
偽園長だったものは、何も残らない。

脱出した後のことは、警察が何とかしてくれるだろう。
後日報道で、行方不明者や行方不明として届け出すらされていなかった一人暮らしの老人たちが地下洞窟で発見される。それらの死亡は確認され、東園長も亡くなっていたことが分かる。

しかし探索者は知っていた。
脅威は今のところ月絵町を去り、一先ずの平穏は確保されたのだということを。

そしてねこま幼稚園では、新しい園長の就任式が執り行われることとなった。
新しい園長の名前は、イリス=ユーホルト。
「しばらく、ボストンには帰れそうにないなあ……」
困ったような、しかしとても嬉しそうなイリスの笑顔が花咲くことだろう。

8.成功報酬
サッドエンド以降は成功報酬がある。

PCの生還→1d10のSAN値回復
偽園長の正体を暴く→1d5のSAN値回復
イリスの生還→1d5のSAN値回復

ニョグタとの遭遇→5%のクトゥルフ神話技能ポイント
呪文習得(習得者のみ)→3%のクトゥルフ神話技能ポイント
ニョグタの退散(目撃者全員)→2%のクトゥルフ神話技能ポイント